荒関仁志教授

「当時のことを思い起こしてみますと,現在のネットワークのあり方には不思議な感じがしますね」

Q.研究者になったきっかけは?
 元々物理屋で,コンピュータには興味がなかったんですよ。理論物理を目指していたので紙と鉛筆があればいいと,いわば旧態然とした湯川秀樹,朝永振一郎レベルのことを考えて大学に入ってきたんです。そんな私が最初にコンピュータに触れたのは,大学の天文研究会でした。他の大学と共同で木星観測をやってまして,そのスケッチをコンピュータで解析してたんですよ。多数のスケッチを集め統計を取り,この模様が何時何分に動いてその誤差は何パーセントだとか。ですがその時使ったコンピュータは他の大学のものだったので,特にその時点ではコンピュータに関わることはありませんでしたけども。
 しかしあるとき,その大学のコンピュータが,メンテナンスのため長期に渡って使えなくなってしまったんですよ。そこで日大のコンピュータを使おうという話になりまして,プログラムを作り直したのが,私がコンピュータに触れた最初の経験になります。元々コンピュータに興味があったわけではないので最初は嫌々でしたが,やってるうちに面白く感じるようになりました。またその後大学の研究においても,研究領域が原子核物理という理論と計算の両方と関わる分野を専門にしていた関係で,半ば必然的にコンピュータに関わるようになっていったんです。
 私が卒業した1985年前後は,今よりも深刻な不況で,就職口がほとんど無かったんです。いくつか試験を受けたんですが,コンピュータソフトウェア会社しか採ってくれなかったんですよ。そして,言ってしまえばそれだけの理由でその会社に就職してしまいまして,いよいよコンピュータと縁が深くなってしまったんです。元々コンピュータを指向していた訳ではありませんでしたが,世の中がその方向を向き始めていましたので,それもまた良いかなと思っていました。その会社では,初めてマウスの付いたマッキントッシュに触れました。大学時代に使っていたディスプレイは文字しか表示できないキャラクタディスプレイでしたから,そのグラフィックディスプレイには驚きましたよ。また,当時としては珍しかったコンピュータ・ネットワークにも触れることができまして,そこでコンピュータの可能性に興味を持ちまして,コンピュータに関する研究に手を出すようになりました。しかし当時のネットワークは,誰もが使えるようなものではなかったんですよ。その時代のネットワークと言えば「JUNET」という大学間ネットワークしか,正式に運用されていませんでしたらか,それを使えるのはコンピュータ研究者や開発者といった,ごくごく限られた人だけだったんです。数千人の社員のうちたったの数10人とか,そんなレベルでした。そうした背景もありまして,コンピュータ・ネットワークはモラルのある人間が,確実な技術の上で運用しなくてはならないと言われていました。特に商業目的,無目的には絶対使ってはならないと,口やかましく言われていたんですよ。そのためネットワークを使う人間は,いわばハイレベルでモラルある人間でしたから,今日のようなウイルスなどまったく想定していませんでしたし,その必要もなかったんです。それを思うと,今のように教育もされずに野放しにネットワークを使える状況は,非常に怖くもありますね。この大学院を含め,ネットワークの使い方はしっかりと教えなくてはならないと思います。またそうした人のみが,ネットワークを使うべきだと思います。
 正直な話,この大学院のシステムも,かつてウイルスがらみで少々混乱したことがありました。しかしそうした事態を見るのは,技術者としてとても悲しいんですよ。ですから皆さんには,もっと勉強して頂きたいと思っております。