保坂敏子教授

Q.担当科目の概要について教えてください
 <言語教育学特講>
 この講義の目的は,「グローバル時代において,言語教育は何を目指すべきか」について,英語,中国語,日本語などの語種を越えて検討することです。例えば,近年「グローバル人材の育成」の必要性が高まり,一部では「英語」の教育が重視されています。確かに,英語は現代のリンガフランカといえる状況ですが,英語の知識やスキルを身に付け,英語ができれば「グローバル人材」と言えるでしょうか。私は,世界的な移動が盛んになった現在,様々な人々接触する中で,自分の持っている複数の言語や文化の能力を使って問題を解決し,相互理解が深められるようになることが重要だと考えています。この科目では,欧州で策定された言語教育・学習・評価のための『ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:以下CEFR)』の基本理念である「複言語・複文化主義」や,学習者の主体性を重視する「言語文化教育学」の概要と思想を取り上げ,履修者同士の協働学習を通じて,相互理解のための言語教育について学びを深めていきます。
<言語教育メディア・教材論特講>
 ICTが急速に日常生活に浸透し,日本でも学校教育にデジタル教材が導入されようとしていますが,香港やシンガポールでは,一足先に教室からホワイトボードが消え,教室環境・学習環境のデジタル化が進んでいます。このような中,言語教育においてICTを有効利用するにはどうしたらいいでしょうか。ICTを教育に活用するためには,その基盤となる学習理論やそれに応じた教材デザイン・授業デザインを知ることが重要です。この科目では,ICT利用の背景となる3つの学習理論(行動主義・認知主義・社会構成主義)の変遷と,それぞれの教材デザインについて学びます。さらに,言語教育に特化した教材デザインのあり方を学ぶために,バフチンの言語理論に基づいて開発された教科書(印刷媒体)を取り上げ,言語理論と具体的な学習デザインとの関係を探ります。

Q.先生の研究テーマについてお聞かせ下さい。
 
言語教育における「メディア」と「言語学習・言語習得」の関係,また,言語教育における「ことば」と「文化」の融合について研究しています。
 近年,産業構造の変化に伴う言語学習観のパラダイムシフトが起きています。また,ICTの進展による言語学習を取り巻く環境が変化し,多様なメディアが言語学習に利用されています。一般的に「メディア」はメッセージを伝達する様々な媒体として,例えば,テレビや新聞などのマスメディア,インターネットなどの電子メディアなどを指しますが,教育工学的発想で見ると,メディアは人の学習を支援し「学習の事象learning eventを生起するもの」と捉えます。その昔デールが「経験の円錐」で示したように,メディアは,具体的で個別的な「直接的・目的的経験」から抽象的で汎用的な「言語的象徴」概念までの経験を媒介するものであり,具体から抽象への下から上へ,上から下への流れを結び付ける役割を担っていますが,これまでは,教師が授業でいかにメディアを有効利用できるかが研究の焦点となっていました。,Eメールやインターネット,SNSなど電子メディアが発達し,学習者が自由に情報を利用したり,コミュニケーションが取れるようになった現在,学習者の活動を支える学習環境としてのメディア研究や,メディアを使った学習者の主体的な活動に関する研究が進められています。私は学習環境としてメディアを捉える観点から,のICTを利用したのe-learningやオープンエデュケーションについて,また,映像メディアを使った言語学習について研究に取り組んでいます。具体的には,このような中で日本国内外の学習者はどのようなメディアを通して,どのように「ことば」や「文化」の学びを進めているのかを調査し,社会・文化的視座から言語習得について考えています。
メディア文明批判家であるマクルーハンが「メディアはメッセージである」と述べたように,媒体としてのメディアと内容としてメッセージは分離することが出来ないものです。これと同じように,「ことば」と「文化」も切り離すことが出来ないものです。グローバル時代の相互理解を重視する言語教育においては「ことば」と「文化」を融合する必要があると考える立場から,「言語文化教育学」について,また,「文化の翻訳」を核とすることばと文化の学びについて検討しています。具体的には,現在,学内外の比較文化と言語教育の専門家と共同研究で,「文化の翻訳」をコンテンツに,グローバル人材の育成を目指すオープンエデュケーションについて総合的な検討を行っています。さらに,海外の共同研究者と一緒に異文化理解のための映像作品の文化的要素に関する研究にも取り組んでいます。これらの研究が,私のフィールドとする日本語教育だけでなく,言語教育全般に少しでも貢献できればと願っています。