保坂敏子教授


「言語教育・外国語教育としての普遍的な観点から,日本語教育を実証的に研究しましょう」

Q.先生の経歴について教えてください。
 大学の時の専門は「フランス語」で,3年生の時に現在のJASSOの奨学金を受けて交換留学生として1年間フランスに滞在しました。卒業してからは,そのまま大学の国際業務部門で研究者交流の仕事に携わり,その後,国際協力事業団(当時)で大学や研究所で実施される研修コースと研修員に対する日本語コースのコーディネーションをしていました。2か所とも出身地の福岡です。一応フランス語要員ということで採用されたのですが,そのような仕事はごく僅かで,ほとんどが事務的な仕事,同じような仕事の繰り返しでした。専門家とのやり取りも多く,仕事自体は面白かったのですが,自分も何か「専門」と言えるものがほしい,人の話を通訳するのではなく自分の言葉で話したいと思い,大学時代お世話になった言語学者の恩師に大学院進学を相談に行きました。大学院で研究したかったのは,留学中に興味を持った外国語教育の方法。日本の中学・高校で受けた英語教育と異なり,現地のフランス語教育の方法は視聴覚教育を中心としたもので,これは,言語学や心理学,教育学の知見に基づいており,外国語習得に非常に効果があると感じて研究テーマにしたいと思っていました。1980年代半ばです。現在「グローバル人材の養成」が国の急務の課題になっていますが,当時も「国際人(すでに死語でしょうか?)」の養成が大学の大きな目標になっていました。私は,そのためにも外国語の効率的な教育や習得の研究は必要だと思っていました。しかし,その時まず最初に恩師に言われたのは「フランス語じゃ食えない」ということでした。だた,その厳しい言葉の後に,「君のやりたいのは,応用言語学というものである。今,日本で応用言語学が勉強できるのは,日本語教育をフィールドにしている国立国語研究所だけだ」というアドバイスもいただきました。今のように「日本語教育」が学べる大学院がない時代です。斯くして,20代後半に大好きな福岡を後にして,「日本語教育」を専門的に学ぶために上京したわけです。
 国立国語研究所での研修は厳しく,文献の半分近くが英語で書かれた英語教育に関するもので,これをいかに日本語教育というフィールドに適用していくのかについて学びました。まさに「応用言語学」の応用です。ここで,日本語を外国語の一つとして見る視点,学際的に外国語教育の普遍性にアプローチする姿勢を学びました。その後,1年の現場経験を経て,「視聴覚教育」を専門に学ぶために大学院に進学しました。ここで,「視聴覚教育」研究の主眼が,映像メディアを教育利用することかではなく,映像を含むメディアを使ってメッセージをどのように提示するかにシフトしていることを学びました。これは,「教育工学」の中の「インストラクショナル・デザイン」にあたるもので,大学院での勉学と研究の中心はまさに「教育工学」そのものでした。これを,外国語教育,特に,日本語教育に応用するというのが,私のその後の一貫した教育・研究上の立場です。
大学院卒業後は,主に大学の交換留学生を対象にした日本語教育に携わってきましたが,研究としては,新しい教育観や教育手法を応用した「授業デザイン」の研究や,映像メディア,並びに,e-Learningの応用の研究などについて,実践的・実証的な研究を行ってきました。本学大学院でも,言語にこだわらない外国語教育としての普遍的な視点から,教育工学の量的・質的な実証研究をベースに日本語教育や言語教育の研究を進めていける人材の養成に努めたいと考えています。

Q.インターネットを使った通信教育のご感想は?
 
「いつでも,どこでも,だれでも」アクセスすることができるインターネットは,学校に通う時間のない社会人や,遠隔地に住んでいる人,あるいは,体が不自由なため学校に通うことが難しい人にも等しく教育を受ける機会を生み出す,素晴らしい装置だと思います。最近,ムークと呼ばれる大規模公開オンライン講座(MOOC=Massive Open Online Course:ムーク)が注目されています。例えば,MOOCのプラットフォームの一つである“Coursera”では,スタンフォード大学や東京大学など国を超えた107大学の532の講義(2013年10月23日現在)が公開されています。世界中の誰でも無償で受講し,修了すると認定証が貰えるようになっているそうです。日本にいながらアメリカの大学の授業を受講することができるなど,夢のような学習環境が実現したわけです。しかし,問題は,多くの人がコースを最後まで終了できないということ。どんなにいい学習材料があっても,全くの一人で学習を最後まで継続させるのは非常に難しいことです。
その点,通信教育では,学習や研究の流れをナビゲートする教員がいて,学習内容の学びを手伝ってくれたり,学習の相談を受け,学習継続の支援をしてくれます。また,ネット上で同じ講義の受講者同士がやり取を通じて繋がることもできますし,スクーリングなどでは,直接対面することもあります。インターネットを使った通信教育は,現在対面と非対面の学習を組み合わせたブレンデッド・ラーニングとなっており,忙しい現代社会において理想的な学習環境になっていると思います。