眞邉一近教授

「先端のところをやってると,なにやってもいいんです」

Q.先生ご自身の研究テーマは?
 元々私は学習心理学が専門で,動物も対象として比較心理学的研究もやってきました。
 動物の学習ということでよく知られているのは「条件づけ」,わかりやすい例ですと「パブロフの犬」ですね。日常生活の例でいうと「梅干を見ただけで唾液が出る」とか。あれは日本人だけで,梅干を食べた経験がないアメリカ人は当然そういうことは起きないわけですね。日本人でも,例えばウチの子供は帰国子女で,アメリカにいた間は梅干を見ただけでは唾液が出なかったけれども,日本に帰ってしばらく経った頃聞いてみたら,最近は出るようになったと言ってました。こうしたものを「レスポンデント条件づけ」と言います。
 もうひとつは「オペラント条件づけ」というのがあって,どちらかというと私はこちらの方を研究していました。「オペラント条件づけ」というのは,基本的には3つの要素「先行条件」「行動」「行動結果」で成り立っています。いつどこで何をやったらどんなことが起きるかということですね。例えば教室で先生に指名されたときに答えると誉められる。そうすると次回から教室で先生に指名されると喜んで答えるようになる。誉められるという結果があったために次も同じようなことを何度もやる。
ところが先生が指名してないにもかかわらず手も上げないで勝手に答えたら怒られる。同じ教室の場面で同じ行動をしても,指名されてるかされてないかで結果が違うと,次回は勝手に答えるようなことはしなくなる。つまり3つの要素によって行動が変化する,この枠組みが行動分析学の基本です。そこから,動物の条件づけや人の条件づけ,あるいは人の行動を適切に導くにはどうしたらよいかとか,どのような先行条件を設けたらよいかとか,どのような行動結果を持ってきたら問題行動がなくなるのかとか,そういったことを考えるわけですが,これに基づいていろんなことをやっていました。
 私はここに来るまでの間に大学を6箇所変わってるんですね。最初日大の文理学部を出て,ずうっと転々といろんなところを渡ってですね,アメリカに行って,アメリカでも2回変わってるんです。最初はノースキャロライナのデューク大学,それからメリーランド州立大学に移りまして。
 日本にいたころは伝統的な,行動があってその行動に対してどういったルールで結果を与えるか,それによって行動がどう変わるかという非常に基礎的な研究をやってたんですね。それが,アメリカに行く直前あたりから小鳥を使って,その鳴き声をいろいろ変えたり学習させたりと,それをオペラント条件づけでいろいろやってたんです。一番わかりやすい例で言うと,赤い色を見せたら「ピー」と鳴いて,緑の刺激が出たら「クゥー」と鳴くといった具合に色で鳴き声を変えさせるとか,今鳴いてる鳴き声を別な鳴き声に変えさせるとかですね,そういう研究を始めたんです。
 その意義っていうのは,例えば日本語をしゃべってる人が英語をマスターするとき,大人には難しいわけですが,だからといって言語の学習ができないということはないわけですよね。一方で一般的な動物の場合,例えば犬は人の声を出せませんし,あるいは子供のころに学習した鳴き声が一生続くとか,大人になってからまるで覚えられなかったりもします。ところが一部の鳥の場合は一生涯に渡ってそれができるんですね。それはセキセインコとかオウムの類なんですけれども,それはつまり人に近いわけです。
 医学の世界でもそうなんですけれども,例えば糖尿病の研究をするときに,ヒトにはできない実験があったりすると動物を使うわけですけれども,でも動物が糖尿病でなければならないわけですよね。だから糖尿病になるようなモデル動物を作ります。 それと同じように,ヒトの言語の研究のためのモデル動物としてオウムなんかを使ってたわけです。
 そういう,モデル動物として使えるかどうかという研究をずうっとしていて,その後しばらくしてから日本に帰ってきたわけです。今動物に関しては,ここ所沢では実際に動物を扱えないので,日大の生物資源学部で共同研究というカタチで行っています。 最近の研究としては,横浜・八景島シーパラダイスのご協力を得て,ペンギンを使った実験をやっています。ホームページに詳しい実験の経過を掲載していますので,興味のある方はご覧ください。ペンギンの動画もあって,みなさん楽しまれているようです。
 もうひとつは,こういう職場に入って,インターネットを使ってるわけですよね。 そのインターネットにまつわる心理的な問題があったりするわけです。ひとつはeメールでやり取りするうちにケンかになるとかね。あるいは運用面から言うと,今サイバーゼミなんてことをしているわけですけれども,今のところ始まったばっかりで,こうしたらいいという定石みたいなものはないんですね。そういうのを少しずつ研究テーマにしつつあるところです。

Q.ネットを用いた通信教育についてお聞かせください。
 心理学で,インターネットを通したface to faceや一対一で会ってやるのと,顔が見えない状態でやるのとでは違いがあるということは,知識としてわかっているわけですよね。それをeメールだけでやると先程話したようにいろんな問題が起きるというのも知識としてわかっちゃっている。実際やってみるとやはりそういうことがあるわけですね。face to faceとインターネットをいかに組み合わせてゼミや授業をやるかということで,やはり上手く組み合わせないとダメだろうということに,私だけじゃなく皆さん大体わかってきた。
 ところが最近わかってきた事がありまして。サイバーゼミというものがあって,音声および映像でもって双方向通信ができるシステムを使ってるんですが,入学式やガイダンスで最初に一回会っただけでも,サイバーゼミで普段顔を会わせていると,つい最近のスクーリングではすでに仲間関係がじゅうぶん出来上がっていたんです。つまりそういう双方向で音声と映像があるようなシステムを使うと,必ずしもface to faceが密になくても割合やっていけるということが最近わかったということです。最先端のところで普通見ようと思っても見れないところにいるんで非常に面白いです,そういう意味では。また,世界中どこにいてもゼミが開けるという点が大変良いですね。今年度は,私の出張が多かったということもあって,大阪などの国内に加え,アトランタとメリーランドからのサイバーゼミを行いました。パソコンとインターネット環境さえあればどこにいても出来ます。アトランタでは,ホテルのロビーから実施しました(笑)。時差があるので,日本は夜でも,あちらは早朝なんですね。朝焼けの模様やロビーがだんだんにぎやかになっていく様子を発表の合間に中継しました(笑)。
 研究テーマ選びの話になりますが,“後追い”ほど難しいものはないんですよ。一般的に先端やってるほうが難しいと思われがちですが,後追いっていうのは誰かがもういっぱいやってる中でやってないところを探すわけでしょ。けっこう面白くもないしなかなか見つからない。ところが,先端のところをやってると,なにやってもいいんです。つまり一番最初にやるのは自分なわけで,そういう意味で今ここはほかでやってないことをやってるわけですからね。やってみて結果が出て修正して,そういう意味で非常に面白いですね。