松岡直美教授


「我々は世界を認識するのか、それとも世界は我々の意識の投影か」

Q.担当科目の概要について教えてください。
 「文化情報論特講」では、アメリカ比較文学会編による『グローバル化時代の比較文学』およびG .C. スピヴァク、D. ダムロッシュ、A. ピム、E. アプター等の著書等をテキストとして、 比較文学の過去・現在・未来を概説します。ポストコロニアル研究、カルチュラル・スタディーズ、ジェンダー研究などの成果を踏まえ、国際関係研究、地域研究などの社会科学との補完、協働が提唱されていますが、多文化・多言語化する現代社会を理解し、共生を目指すためにも有効な考え方だと思います。また、グローバリゼーションを受けて、新たな世界文学、新たな翻訳パラダイム、そして世界文学と翻訳の関係性についての議論が活発になっていますので、これらも紹介します。概説と平行して、具体的な比較研究を行います。例えば、日本および欧米の現代小説 、特に歴史ナラティヴを取り上げ、いかに過去が語り直され、歴史が検証されているかの比較考察です。日本の作家では大江健三郎や村上春樹、欧米作家ではThomas Pynchon 、Kazuo Ishiguro 、Toni Morrison などを取り上げます。

 「アメリカ文化特講」ではポストモダン・フィクションを研究します。Thomas Pynchon、Paul Auster 、Kurt Vonnegut、Don Delillo、Maxine Hong Kingston、Toni Morrison、Theresa Hak Kyung Cha らの作品を取り上げ、考察しますが、絵画、映画、音楽、演劇など、関連する芸術領域にも議論を進めます。ポストモダニズムをめぐる様々な議論、また、この文化現象に先行するモダニズム、連動する多文化主義やジェンダー研究、および近年の世界文学や文化翻訳いう新たな視点からも考察を深めていきます。

Q.先生の研究テーマについてお聞かせ下さい。
 
博士論文ではKazuo Ishiguroのポストモダンへの転向を論じました。イシグロは1954年に日本の長崎で生まれ、幼少期にイギリスへ渡った作家です。そのため、日本とイギリスという二つの文化を担いながら、どちらの国にも帰属しない「文化的孤児」、あるいは Trans-national/Post-national と言われるような立場から小説を書いています。そこに、民族や国境などに規定されない現代人の状況およびグローバル・カルチャーの一端が見えてくると考えています。

  並行して、村上春樹の研究も続けていますが、彼の文学は四十数ヶ国語に翻訳され、イシグロ同様、世界中で読まれています。文化グローバリゼーション=アメリカ化とも言われていますが、アメリカ文学の影響を強く受けた村上春樹の文学が、今度はアメリカに伝播、浸透し、同世代作家や文化シーンに影響を与えるようになっています。こうした状況を「世界文学としての日本文学」という観点から検証しています。

  ポストモダン・フィクションの研究を続けてきて、改めて思うのは、一般に世界や現実と考えられているものも、多分に私たちの意識や認識の投影であるということです。様々な世界や幾つもの現実がありうるのであって、こうしたことを理解することによって文化の翻訳が可能になり、文化の対話が成立するのだと考えます。

  また、長年、パートナーと共に「原爆文学=核の主題をめぐる文学」の研究も続けてきました。文化社会的背景によって、また、時代によって、あの人類史的出来事への視線も、核をめぐる作品の傾向も当然異なってきます。これらを比較文学のアプローチで総体的に、また補完的に研究することで、1945年元年から現在までの核時代の全貌がようやく見えてくるように思います。3.11以降は、ヒロシマからフクシマへと、核時代の言説を継承させるための研究と発表活動を行っています。