保坂敏子教授

Q.担当科目の概要について教えてください
 <言語教育工学特講>
 ICTが急速に日常生活に浸透した現在,e-Laerning教材の開発だけでなく,反転授業に基づくアクティブラーニングやオンラインとオフラインの学びを統合するブレンデッドラーニングなどの取り組みが教育現場で広がっています。また,香港やシンガポールでは,一足先に教室からホワイトボードが消え,教室環境・学習環境のデジタル化が進んでいるといいます。このような中,言語教育においてICTを有効利用するにはどうしたらいいでしょうか。ICTを教育に活用するためには,その基盤となる学習理論やそれに応じたインストラクショナルデザイン(ID)の手法を知ることが重要です。この科目では,前期には,まず,ICT利用の背景となる3つの学習理論(行動主義・認知主義・社会構成主義)とIDモデルを学んで,ICT利用に関する基礎的・理論的知識を固めます。次に,それを基に,教育実践の事例について分析・検討を行います。後期には,「インターラクティブティーチング」をテーマにしたオープンエデュケーション教材を使ってe-Learningの実体験をし,そこでの自分の学びを振り返り,ICTを使った学習の効果や利点をクリティカルに検討します。その上で,それぞれの言語教育の現場でのICTの有効利用を目指した授業デザインを立案します。前期と後期を通じ,言語教育分野で理論と実践をつないでICTを活用する能力の獲得を目指します。

Q.先生の研究テーマについてお聞かせ下さい。
 
言語教育における「メディア」と「言語学習・言語習得」の関係,また,言語教育における「ことば」と「文化」の融合について研究しています。
 近年,産業構造の変化に伴う言語学習観のパラダイムシフトが起きています。また,ICTの進展による言語学習を取り巻く環境が変化し,多様なメディアが言語学習に利用されています。一般的に「メディア」はメッセージを伝達する様々な媒体,例えば,テレビや新聞などのマスメディア,インターネットなどの電子メディアなどを指します。しかし,教育工学的発想では,メディアは人の学習を支援し「学習の事象learning eventを生起するもの」と捉えます。その昔デールが「経験の円錐」で示したように,メディアは,具体的で個別的な「直接的・目的的経験」から抽象的で汎用的な「言語的象徴」概念までの経験を媒介するものであり,具体から抽象への下から上へ,上から下への流れを結び付ける役割を担うものです。この観点から,これまでは,教師が授業でいかにメディアを有効利用できるかが研究の焦点となっていました。しかし,Eメールやインターネット,SNSなど電子メディアが発達し,学習者が自由に情報を利用したり,コミュニケーションが取れるようになった現在,学習者の活動を支える学習環境としてのメディア研究や,メディアを使った学習者の主体的な活動に関する研究が進められています。私は学習環境としてメディアを捉える観点から,ICTを利用したのe-learningやオープンエデュケーションについて,また,映像メディアを使った言語学習について研究に取り組んでいます。具体的には,このような学習環境の中で日本国内外の学習者はどのようなメディアを通して,どのように「ことば」や「文化」の学びを進めているのかを調査し,社会・文化的視座から言語習得について考えています。
 メディア文明批判家であるマクルーハンが「メディアはメッセージである」と述べたように,媒体としてのメディアと内容としてメッセージは分離することが出来ないものです。これと同じように,「ことば」と「文化」も切り離すことが出来ないものです。グローバル時代の相互理解を重視する言語教育においては「ことば」と「文化」を融合する必要があると考える立場から,「言語文化教育学」について,また,「文化の翻訳」を核とする「ことば」と「文化」の学びについて検討しています。これまで,学内外の比較文化と言語教育の専門家と「文化翻訳」について共同研究を行い,その成果を基にオープンエデュケーション教材にまとめ,JMOOCの講座として2016年1月~3月の間GACCOを通して配信しました。さらに,異文化理解のための映像作品の文化的要素に関する研究にも海外研究者の協力を得ながら取り組んでいます。
さらに,現在ゼミの共同研究として「言語教師に求められる資質・能力」の普遍性と個別性について調査を行っています。これらの研究が,私のフィールドとする日本語教育だけでなく,語種を超えた言語教育全般に少しでも貢献できればと願っています。