竹野一雄教授

「恋をしてしまったんですよ。
その作品のヒロイン、セァラに対して」

Q.先生の研究テーマ・経歴についてお聞かせ下さい。
 私は中学の頃から英語に関心がありまして、頑張って勉強していたと思います。もちろん大学も英文科へ進んだんですが、実は最初、大学には行かないつもりだったんですよ。別に行かなくったって、やっていけるんじゃないかと思いまして。
 しかしそこで、私の人生を変えた衝撃的な出来事があったんです。なんとアルバイトの時給が、大学生とフリーターではまったく違ってたんですよ。それが契機で、根が素直で単純ですから、これはやはり大学に入ったほうが良いのではないだろうかと思いまして、都合2年浪人した末、英文科へ進学しました。
 大学に入った当初、私は英文法が好きだったこと、また小学校のときに良い先生に指導して貰ったこともありまして、英語の教師になろうと考えていたんです。
 ですが2年になったときに、講読の授業でグレアム・グリーンの『情事の終わり』という作品に出会いました。そして、これが私の運命を変えてしまったんです。実は私、そこで恋をしてしまったんです。その作品のヒロイン、セァラに対して。
 これがきっかけで、私は英文学の世界に強く惹かれるようになっていきました。またグリーンを通して、ヨーロッパはもとより世界各地に対する関心も深められて行ったんです。
 グリーンは元々イギリスの諜報部にいた人なんですよ。そのせいか、もちろん文章家としてのテクニックも凄いんですが、スパイ的な発想が特に面白いんですよね。その作品の舞台も、国際政治や紛争地域が絡んできたりするんです。また、本人はそう言われることを嫌がっていましたが、カトリック作家でもありました。ですから、半ば必然的に、その背景にある様々なものについて、関心を持つようになったんですよ。キリスト教作家がどのように世界を見て、ビジョンを構築していくのだろうかと。
 こうした経緯がありまして、大学院では主にグリーンを研究しました。またルイスに関心が出てきたのもこの頃だったんですが、しかしその後、博士課程のときにはどうにも先が見えない、閉塞した状況に落ち込んでしまったんですよ。研究もだんだんと、重箱の隅をつつくようなつまらないものになりました。このままでは駄目だと思いつつも、どうにも道を開くことが出来ませんでした。しかも結婚し子ども授かりましたから、アルバイトが忙しく、勉強する時間すら少なくなってしまったんです。
 その後、こうした行き詰まりを感じながらも、幸いなことに就職することが出来まして、女子短大の英文科で教鞭をとることになりました。
 転機が訪れたのは、それから7年後のことでした。アメリカのシカゴ郊外のウィートン・カレッジ内にあるC.S.ルイス研究の世界的なライブラリー「マリオン・E.ウェイド・センター」で研究をする機会が得られたんです。そこでの学びを通して、私の研究の方向性が与えられ、また決定づけられました。聖書を文学的に読むこと、神話を視野に入れて文学を考えていくということ、欧米文学や文化とキリスト教の根深い関係などについて私は新しい目を授けられたかのような経験をしたんです。
 研究の方向性は、現在も継続しております。留学を終えて帰国したのち、実はキリスト教と文学の関係を熱心に研究している学会が、日本にも存在していたことを知って驚いたんです。以降私は、ルイス協会とともにその学会の研究会に参加し大きな刺激を受けています。

Q.インターネットを使った通信教育についてのご感想は?
 まず何より感じるのは、皆さん非常に意欲的だということですね。学部の学生よりも、割合的に。
 指導では主としてメールを使うんですけども、やはりたまに顔を合わせることが必要だと思います。そのため、だいたい月に1回ぐらいの割合でゼミを開くんですが、ひとつ不思議なことがあるんですよ。なぜか普段メールのやりとりをしている人とは、初対面でも良く会っているように思えてしまうんです。
 これは要するに、クロノスとカイロスの違いかもしれません。我々の共有している時間のうち、いわゆる時計の時間であるクロノスは短いものに感じられますが、意味の時間であるカイロスは長いものとして感じられるのでしょうね。とにかく、密度が濃いんですよね。
 また、正直に言えば苦労する部分もあります。皆さんの前で授業をするというプレッシャーからは解放されましたけども、今度はメールを早く返さねばというプレッシャーに襲われているんですよ。やはり皆さんも、早く返事が欲しいだろうと思いますから。それにメールの場合、話すのと違って文字が残ってしまうんですよね。ですから思いを込めて、きちんと書くよう心がけています。話すときより緊張するときがあるんです。