布袋屋浩教授

Q.趣味、休日の過ごし方は
 子どもが空手と水泳をやっていて、これらの試合が無い時はなるべくゴルフに出かけております。自分が日本ゴルフツアー機構指定医師をしている関係で、家族には「自分が体験しないと患者さんの気持ちがわからないから」とゴルフも仕事の一環と言い聞かせております。ゴルフは老若男女が一緒に楽しめるスポーツであり、娯楽的な要素もありますが競技スポーツとしての準備も必要ですし、また多職種の方々との交流も深めることが出来るので、最高の生涯スポーツだと思っております。

Q.志望者に向けて、一言お願いします
 <アスリートにとってスポーツ医学の重要性>
 科学とは、現状を把握し、起きている現象における不具合の原因を究明し、対応策を検討・計画し、そしてそれを実践してみて、その結果が成功するか失敗するか再度評価する、という過程の繰り返しといわれております。
 スポーツの世界でも同様のことがいえます。4000本安打を達成した某有名プロ野球選手は、「4000の安打を打つには、8000回以上悔しい思いをしてきた」とコメントしています。また「僕は天才ではありません。なぜかというと、自分がどうしてヒットを打てるかを説明できるからです。」「やってみて“ダメだ”と判ったことと、はじめから“ダメだ”と言われたことは違います。」「何かをしようとした時、 失敗を恐れないでやってください。失敗して負けてしまったら、その理由を考えて反省してください。必ず、将来の役に立つと思います。」とも言っています。まさしく“反省的実践家”の代表選手といえますね。
 このようにトップレベルのアスリートは、自分の身体のことをよく理解している選手が多いです。しかも調子が良いとか悪いというような主観的な感覚ではなく、測定データや科学的な知識に基づいた客観的な評価で自分の状態を把握しようとしますし、また新しい知識や方法に対しても貪欲に自分のものにしたがります。そのような意識の高い選手は、ケガをした時の対応や治療に対する姿勢、リハビリテーションやトレーニング方法、コンディションの作り方や私生活に関してまできちんと自分でコントロールしています。そしてさらに自分の技術や能力、パフォーマンスを向上させるための方法まで自分で見つけることが出来ています。
 このことは、決してプロ選手やトップアスリートに限ったことでは無く、すべてのスポーツ選手に要求されるべきと思われます。まずは基本的な身体のしくみと解剖学的に正しい関節や筋肉の使い方を理解し、そして正しいフォームとはどういう理論に基づいているのかを習得することで、より上手に、より効率よく、より強くなることが出来ますし、ケガを負うリスクも減らせます。間違ったトレーニングや過度な練習によるスポーツ障害を減らし、よりレベルアップしたパフォーマンスを発揮するためには、スポーツ医学は必須の学問と考えます。
 繰り返しになりますが、スポーツ外傷や障害には必ず原因があります。スポーツ医学的観点からケガや故障についてその現状を詳細に把握し、そしてその原因を究明することが大切です。なぜそのようなケガや故障が生じたのか、フォームが悪いのか、練習の仕方が悪かったのか、基本動作がおろそかになっていたのではないかなどを詳細に評価します。そして改善策を検討し、実践します。その結果再発予防が達成されれば、さらにその選手はパフォーマンスの向上が得られると思います。

 人間の身体は機能ごとに分業をしています。酸素を取り入れ二酸化炭素を排出する“呼吸器”(気管や肺)、酸素や栄養や老廃物などを運ぶ血液を流す“循環器”(心臓や血管)、食物を消化・吸収する“消化器”(胃や腸)、目や耳などから情報を取り込む“感覚器”、骨、関節、筋肉など身体を構成している“運動器”、そして人体のすべてをコントロールしている“脳神経”、これらのさまざまな組織や器官が複雑に絡み合い連携を取り合って、私たちは生きています。これらのどれかひとつでも悪ければ身体はうまく動きませんが、“運動器”だけは私たちが自分の意志で上手に使ったり鍛えたり出来ます。従って競技に勝てるアスリートや、それをサポートする指導者・トレーナーにとって、運動器のしくみを理解することの重要性はいまさら言うまでも無いでしょう。

<競技スポーツだけでなく、現代社会におけるスポーツ医学の役割>
 近年私たちの平均寿命は大幅に延び、2015年の時点で女性の平均寿命は86.8歳(世界一)となり、また男性は80.5歳(世界第六位)でした。しかしその一方で健康寿命(健康上の問題がない状態で自立した日常生活を送れる期間)は、平均寿命より女性で約12年、男性で約9年も短いことが分かりました。これは自立度の低下や寝たきり状態、つまり要支援・要介護状態の期間が平均で9~12年もあるということです。この要因の第1位は“運動器の障害”で、第2位の脳血管疾患19%より多く、25%を占めています。
 これに対して日本整形外科学会では、運動器の障害を予防して健康寿命を延ばすことを目的に“ロコモ”という概念を提唱してきました。ロコモティブは機関車、移動という意味ですが、医学的には、筋肉・骨・関節・軟骨・椎間板といった運動器を指し、この運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をロコモティブシンドローム(和名:運動器症候群)、通称ロコモといいます。ロコモが進行すると運動器が衰え、段差で転倒や骨折を生じやすくなり、日常生活にも支障をきたし、介護が必要になるリスクが高くなります。運動器は自分の意志で動かすことができる唯一の器官であり、スポーツにより何歳になっても鍛えることができます。
 またスポーツはロコモの予防だけでなく、娯楽、自由時間の充実、豊かな社会的交流の促進、そして生きがいのある人生の構築にも大きく役立っています。さらには社会教育機能の強化、世代間交流、地域活性化、医療費削減、経済活性化、治安の維持など、スポーツの推進により得られる効果は莫大です。いつまでも自分の足で歩き続けていくためには、スポーツ医学の知識を深めて健康的にスポーツを続け、「運動器の寿命は自分で延ばす」という意識を持つことが大切です。