和田万紀教授

「ゼミという形態の個人教育の実りを実感しました。」

Q.先生の経歴について教えてください。
 大学院を単位取得退学後,幸いにも日本大学文理学部心理学科の助手という「職業」を得ることができました。この職業は,2つの意味で,今の私を形成することになりました。 1つめは,助手という職種です。それまでは学生として在籍していた「学びの場所」が,一転して「職場」となりました。そこで経験したことのなかに,大学という教育の現場が,1年間というサイクルでどの様に動いているのか,研究資金の調達から学生の指導まで大学という組織の運営を実践的に学ばせてもらったと言うことです。ここでの経験や知識が,他の「職場」に移っても,さまざまな観点で応用できる基礎を作ってくれましたし,いざというときに役に立ちました。大学院まで学生という立場で過ごすと,ともすると世間から隔絶した世界を形成しがちです。遅ればせながら,大学という特殊な場ですが,世間を知ることができました。
 2つめは,この助手の在職期間に,大学院に再入学をして,学位を取得させてもらいました。職業を持ちながら,学生を続けることを可能にしていただいたのです。仕事が終わってから論文作成に取りかかり,また,時間をやりくりして,実験や調査を行わなければなりません。1日24時間では足りませんでした。それでもあのときに学位取得をめざして行動しなければ,今の私は無かったと断言できます。
 その後,短大,大学で教鞭を執るという経験をしました。そこでは,心理学を専攻とする人間は私1人で,他は異分野の先生方という状況でした。「言葉が通じない」という経験をしたのです。その一方で私が「心理学」の旗を立てることになりました。心理学の様々な分野の勉強をして,問いかけに答えなければなりません。その中での楽しみは,1つの問題を複数の分野の先生方と一緒に解くという共同作業の経験でした。例えば情報文化学とは何か,ということについて,社会科学,文学の分野からだけではなく,自然科学や工学の分野からも先生方が加わりました。大変知的好奇心をかきたてられる経験をしました。
 このとき私は初めてのゼミを担当しました。ゼミを通じて,1人の学生と向き合うことの難しさ,おもしろさを経験しました。その学生たちとは今も交流が続いています。ゼミという形態の個人教育の実りを実感しました。
 現在は法学部に所属しています。日本ではまだ心理学が法学にどのように貢献できるのか,未知数です。それは多くの可能性が残されている,と解釈できると思います。心理学の応用分野の開拓にすこしでも役に立てればと思います。

Q.インターネットを使った通信教育についてのご感想は?
 教育の原点は,やはり1対1の対面コミュニケーションにあると信じています。その中で,お互いの人間性にふれながら,何かを育むことができれば最高であると思います。
 インターネットでの通信教育は,1対1が基本ですが,直接的に対面することは限定されています。その分,いつでも,どこでも,という利便性が優れていると思われます。この利便性があるが故に,多くの人が学ぶ環境を確保でき,可能にしていると思うと,技術の進歩はすごいと感じます。
 その一方で,送られてくるメールを見るたびに,かつてはやった歌のように,メールの画面をそっとなでてみたくなる。画面の向こうにいる人は一体今何を思い,何を感じているのか,大変興味があります。そこには,デジタルの文字に表すことができない何かがあるのではないでしょうか。その何かが私には興味深くてしょうがないのです。