呉川教授


「研究によって見えてくる言葉の背景は身近な言葉ほどよく表れている」

Q.担当科目の概要について教えてください。
 私が担当している「漢字文化特講 」や「現代中国文化特講」
は,言葉と文化に関する特別講座です。社会現象や文化に関わる言葉を取り上げて考察し,社会によって言葉がどのような影響を受けて変化してきたのかを研究していきます。また,新たに生まれてきた言葉や,いまだに意味を説明できていない言葉を常に収集し,分析していくというのもこれらの講座で行う内容のひとつです。それらに加え,日本と中国の両国で使われている共通の言葉を比べて,違いを探る比較対照研究も行っていきます。
 例えば,色の表現である黒,白,黄色といった色彩語があります。これらの言葉は漢字で書けば日本語も中国語も同じなのですが,言葉に対するイメージはかなり違います。黒という言葉は,中国ではよく「悪」とか「秘密」というイメージに使われます。「黒社会」というと,「マフィアの世界」。「黒市」というと,「闇市」という意味になります。また,黒は「死」を連想するような不吉な色として一般的に忌み嫌われています。日本の場合,結婚式でも黒い服を着るのが常識ですね。中国では,黒い服を着て結婚式に入場したら,大騒ぎになるかもしれません。なぜかというと,「黒」はお葬式の時に使う色だからです。また,農耕社会であった古代中国において,黄色は大地を表し,とても尊い色とされていました。その後,皇帝専用の色となり,さらに貴重なものとして扱われるようになったのです。ところが,現代中国語では,もっぱら「エロ・グロ」の意味に用いられています。「黄色小説」というと,ポルノ小説になってしまいます。これは19世紀アメリカの「イエローペーパー」の影響だったと言われています。
 ほかに,伝統的慣習によるイメージの違いもあります。かつて,アメリカ某州環境保護局のご一行が中国訪問の際,記念品としてわざわざグリーンの帽子を用意しました。しかし,しぶしぶしながら受け取った中国人の男性たちは,顔を赤らめ,帽子を手にしたまま,誰ひとり頭にかぶろうとしません。その場にいる女性たちもくすくす笑い出しました。変だなと思った団長が通訳に聞いたら,やっとそのわけがわかりました。グリーンの帽子のことを中国語で「緑帽子」といって,「戴緑帽子」(緑の帽子をかぶる)とは,妻を寝とられた男をあざけっていう言葉です。どうりで,その場にいる彼らは誰も緑の帽子をかぶろうとしなかったわけですね。
 このように,言葉の表面は同じであっても掘り下げていくと,日本に伝わってから意味が変化した言葉など,研究することによって見えてくる言葉の背景があります。ただ言葉の意味を調べるのではなく,言葉が生まれた経緯,言葉の構成,その使い方など,様々な切り口で研究を進めていけます。
 そのほか,中国の流行語や新語など,身近な言葉も研究の対象になります。身近な言葉ほど社会の世相というものをよく表していますし,そこから時代の変化が読み取れます。それらを研究することによって,親近感が沸いて,興味を持ちやすくなるのもメリットだと思います。